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第八回皇學館大學人文學會大会の開催


 平成27年7月5日(日)の9時から、「第8回皇學館大學人文學会大会」を431教室にて開催した。本会会長の深津睦夫文学部長による開会の辞の後、自由発表の研究発表(質疑を含めて持ち時間は1人30分)として、午前中に5本、午後に3本、合計で8本の充実した発表が行われた。
 午前中の発表は、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程国史学専攻・山田恭大氏による「伊勢神宮における元禄年間の朝儀復興について」、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程国文学専攻・劉淙淙氏による「井上靖「楼蘭」における宿命観―<白い河床>のイメージについて―」、京都大学大学院文学研究科日本史学専修博士後期課程・池田さなえ氏による「明治期日本における皇室の社会的受容―開明社「川下」一件を事例として―」、皇學館大学研究開発推進センター助手・佐野真人氏による「『皇太神宮儀式帳』の四至について―「以北」表記に関する一考察―」、戸田市立郷土博物館学芸員・石川達也氏による「触頭としての武蔵国秩父神社薗田神主家」の5つの発表が行われた。
 山田氏の発表は、祈年祭・神衣祭という2つの再興運動をもとに、神宮・幕府・朝廷3者の立場から見た朝儀復興の問題を取り上げたもので、3者の思惑について言及した上で、神宮が祭祀を安定させるための運動と結論づけた。劉氏の発表は、井上靖の西域小説である「楼蘭」について、作中に出てくる「宿命」などの用語を整理した上で、特に<白い河床>を重要なキーワードと捉え、それを人類の文明の栄えと滅びの象徴として論じた。池田氏の発表は、皇室の所有地である御料地に注目し、そこに関わっていた民間企業である製糸結社「開明社」を切り口として、明治時代の皇室がどのように社会的に受容されていたのかに迫っていた。佐野氏の発表は、『皇太神宮儀式帳』には写本によって違いが見られることを指摘し、特に「以北」の「以」という1文字が誤って記されるようになった経緯についての意見を述べられた。石川氏の発表は、関東地方に属する武蔵国秩父神社神主薗田家の神職組織を取り上げながら、触頭・触下の関係についての動向について述べられた。

 お昼休みを挟み、午後には同志社女子大学研究生/近畿大学非常勤講師・田中教子氏による「斎藤茂吉の「圧搾」と「省略」」、信州大学人文学部准教授・速水香織氏による「『岐蘇路安見絵図』の出版と宝暦期の江戸出版界」、大手前大学講師・上野利三氏による「魏志倭人伝から見た邪馬台国大和説―「冢」は墳にあらず、「国」は国にあらず―」の3つの発表が行われた。田中氏の発表は、斎藤茂吉が万葉集における声調の研究をする際に用いていた「圧搾」「省略」という用語に着目し、研究の変遷をたどりながら、茂吉の提示した論点についての意見を述べられた。速水氏の発表は、複数の中山道関連書籍の出版事情を踏まえつつ、『岐蘇路安見絵図』を取り上げることで、宝暦期における江戸出版界についての状況を整理された。上野氏の発表は、魏志倭人伝を読み解きながら、邪馬台国大和説についての見解を述べられた。
 いずれの発表も活発な議論が行われたこともあり、予定の時間を大きく超過することになったが、発表者・参加者の双方にとって大きな成果を得られたように思う。
 総会の開催を挟み、その後は名古屋大学文学研究科教授・塩村耕氏に「文学部の文明史的任務について」と題した記念講演をいただいた。塩村氏には『文学部の逆襲』(風媒社)という編著があり、今回のご講演ではそのときのご経験を踏まえ、文学部のあり方や今後の可能性についてのお話をいただいた。
 塩村氏は講演の冒頭から「人間は時代とともに退化しやすい」ということに触れ、もともと人文学とはそういうものの見方をする学問であると主張された上で、死者との対話により得た知見を通して、「人間の退化をくいとめることが人文学の文明史的任務である」というように、冒頭から結論を簡潔に述べられた。文学部の存在意義を「文明劣化防衛隊」とも表現されており、この日のご講演の趣旨がとても明瞭な言葉で表現されていた。塩村氏はそれに続け、人間は同時代の論理だけで生きていては気づかないことが多いため、先人の努力や智慧にもしっかりと触れる必要があり、それらをしっかりと「読む」ことが文学部の仕事であるとも述べられた。それを行うためには、文字や言葉、文脈を形づくり世界観の変化、作家の伝記などを研究していく必要があり、書物に新しい価値観を与えていくことが求められていると主張された。いずれのお言葉も、文学部にかかわっている私たち大学関係者にとって貴重なご意見であり、社会のなかにおける文学部の位置づけを再考するきっかけをいただいたように感じた。
 なお、塩村先生のご講演の内容については、『皇學館論叢』の8月号に「講演録」として収録をいただいている。当日の詳細な内容については、そちらの記録に目を通していただければと思う。
 講演会の終了後は、倉陵会館を会場として懇親会を開催した。研究発表や記念講演の話題で大変盛り上がりを見せ、発表の持ち時間内では語りきれなかったことまで、皆がお喋りを楽しんでいた。塩村先生からご提示いただいた「文学部の文明史的任務」について、この日に会場に集った全員が強く心に刻んだと思われる。人文學会としても、とても貴重な贈り物をいただいたように思う。次年度の大会でも、また多くの新しい発見が得られることを期待したい。(岡野裕行 記)

開会の辞(深津会長) ご講演中の塩村先生

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