平成28年7月3日(日)の10時半から、「第9回皇學館大學人文學會大会」を431教室にて開催した。本会会長の深津睦夫文学部長による開会の辞の後、研究発表(質疑を含めて持ち時間は1人30分)が行われた。午前の部に3本、午後の部に1本、合計4本の充実した発表となった。
研究発表の発表者と題目は、@皇學館大学大学院特別研究生・井上真衣氏による「『我が身にたどる姫君』の物語構造と成立について」、A大阪大学大学院文学研究科特任講師・勢田道生氏による「茨城県立歴史館蔵『往復書案』紙背『大日本史』草稿について―寛文〜延宝期における『大日本史』本文の実態―」、B戸田市立郷土博物館学芸員・石川達也氏による「江戸後期「豪農」の経営と寺院寄進〜武蔵国足立郡下戸田村金子善四郎・善兵衛親子を例として〜」、C皇學館大学現代日本社会学部教授・富永健氏による「憲法24条と家族法の課題」となっている。
午前の部お一人目の井上氏のご発表は、『我が身にたどる姫君』全8巻の物語構造が、全体としては第1部(巻1〜巻3)・第2部(巻4〜巻8)に分けられるとされながらも、鎌倉時代の歌集『風葉和歌集』に収録された歌との区切りの不一致(巻1〜巻4までを収録)が見られるという問題を取り上げたものである。結論として、もともと『我が身にたどる姫君』は2部構成の物語として巻四までが構想され、それらがまとまった形で成立し、その後に続編として巻5以降が書き足されたものと述べられた。
お二人目の勢田氏のご発表は、『往復書案』紙背の資料をもとにして、『大日本史』の本文成立に影響を与えた資料を取り上げながら、その成立過程をさまざまな資料との比較の上でたどりつつ、分析を加えていったものである。「天武天皇紀」や「持統天皇紀」などの本文が『本朝編年録』の本文に多く一致していることや、林家史学や朱舜水からの強い影響が見られる点などを結論として指摘された。
三人目の石川氏のご発表は、近世の江戸近郊農村における農村の経営状況について、金子家を事例に取り上げながらその実態を把握していくとともに、金子家による寄進の範囲と特徴についての検討を加えたものである。結論として、金子家に関する田畑や屋敷地の質入証文を取り上げながら、質入地の集積を通じて富を蓄積し、多額の金銭を貸し付けるという金融業による経営を行っていたと述べられた。また、これまで未発見にあった寄進関係の新資料紹介についての検討も加えられた。
お昼休みを挟み、午後の部の富永氏のご発表は、「家族の尊重(あるいは家族の保護)」に焦点をあてながら、憲法第24条の成立時の帝国議会での議論、終戦後の民法改正をめぐる議論、近年の憲法改正案における家族の保護の問題について考察されたものである。憲法学説や最高裁判決、改憲論などの家族に関する議論を取り上げながら、家族法のあり方を「個人」か「家族」のどちらに重きを置くのかについての論点を結論として示された。
いずれの発表についても活発な議論が行われ、発表者・参加者の双方にとって、大きな成果を得ることができた。研究発表の終了後は総会を開催し、参加した会員によって本学会の運営状況を確認しあった。
その後は、外務省第6回アフリカ開発会議事務局次長(前伊勢志摩サミット・広島外相会合準備事務局次長)の森和也氏に、「外交講座 伊勢志摩サミットについて」と題した記念講演をいただいた。森氏は講演の冒頭から「サミットとはいったい何だったのか?」という問いかけを聴衆に投げかけ、@首脳同士の関係構築や関係維持を行うための場、A国際問題を解決に導く議論をする場、B議長国の政策や地元の魅力を各国にPRしていくための場、といった3つのトピックスを示していただいた。講演の全体を通じ、日本の美しい自然や豊かな文化・伝統を、世界のリーダーたちに肌で感じてもらえる機会となっていることを強調され、その際には議長国として「おもてなしの心」が求められることを述べられた。また、今回のサミットの開催を通じ、世界のことを考えるきっかけを私たちに問いかける機会にもなっていることも指摘された。普段伺うことができないテーマのお話しだったこともあり、質疑応答の時間には聴衆から多くの質問が寄せられた。
講演会の終了後は、倉陵会館を会場として懇親会を開催した。研究発表や記念講演の話題で大変盛り上がりを見せ、発表の持ち時間内では語りきれなかったことまで、皆がお喋りを楽しんでいた。次年度の大会でも、また多くの新しい知見が得られることを期待したい。 (岡野裕行記)
|