論の構造
論文は、「序論」「本論」「結論」の三部から成る。
「序論」では、この論文で論ずる問題が何であるかを述べる。
この「問題提起」ということが、序論の第一の役割であるが、それに付随して、なぜここでその問題を取り上げるのかを述べる必要もある。
「テーマの意義」の説明である。
その場合、この問題が従来どのように論じられてきたかを示すことによって、その説明とすることが多い。すなわち、研究史の整理に基づく問題点の指摘である。
ただし、研究史については、その整理・展望自体がかなりの記述量を必要とする場合もあり、そうした時には、これを序論の中に組み込まず、本論の中に一章を設けて記述することもある。あるいは、研究史の論述そのものが一編の論文となることもある。
議論の範囲の限定ということも、序論において説明しておくべきことの一つである。
ある一つの問題を取り上げた場合、論点がかなり絞られたものであっても、そのすべてについて論ずることはむずかしい。時間の制約、論者の力量の制約などにより、部分的にしか論じられないのが普通である。そのような時、どこからどこまでを議論の範囲としたのかを述べるのである。
これは、完璧にはなり得ない論文の「免罪符」となるものであるが、そういう消極的な意味だけでなく、その論文の議論が成り立つ条件を示すという意味で、学問的な態度でもある。
研究に用いた資料について、簡単な説明を加えておくこともある。
ただし、これは、「注」に回すことも多い。
また、論述の手順をここで簡潔に予告する場合もある。
これらは、序論に必ず必要だというわけではないが、執筆者本人が論文全体の構想を自覚するためにも、序論で書いておくのは望ましいことである。
序論の分量は、論文全体のだいたい一割弱が普通であろう。見出しを書く場合は、「序論」とする例はむしろ少なく、「序」「はじめに」などとすることが多い。
「本論」では、提起された問題に対する研究経過を記す。
研究対象の資料とその調査・研究方法を説明し、その調査・研究の結果明らかになったことを述べる。つまり、実際におこなった研究作業を具体的に記述するのである。
ここは、具体的なあれやこれやの議論を書かなければならないから、分量的には論文の大部分をなす所で、全体の八割から九割を占めるのが普通である。
論文の構造としては、「本論」は三部分のうちの一つに過ぎないが、記述する分量は圧倒的に多いから、論文の章立てとしては、複数の章(節)から成る。
その章(節)の見出しは「本論」とすることはなく、それぞれの章(節)の内容にふさわしい見出しを付す。
「結論」では、「序論」において提起した問題に対する結論を述べる。
結論を述べるだけだから、分量は少ない。
論は「序論」→「本論」→「結論」の順に、筋が通っていなければならないが、書く順番は、そのとおりでなくてもよい。と言うよりも、そうでない方が一般的である。
三つの部分のうち、もっとも書きにくいのは「序論」部分である。
序論は、その論文における問題の提示をする役割を持っているから、その論文で論ずるべき点、すなわち真のテーマをしっかり把握していないと書くことはできない。
ところが、真のテーマというのは、執筆し始める段階で十分に把握できているとは限らない。もちろんおおよそのテーマは分かっていて書き始めるのだが、むしろ、論文を書き進める過程を通して、真のテーマに到達することが多い。結論を書き終えてはじめて、「なるほど、これが自分の考えていたことなのか」と、自らの書こうとしていたことのすべてがわかるということが、少なくない。
序論から書き出すことの困難さは、そうした事情による。
おそらく、「本論」→「結論」→「序論」の順に書くのが書きやすいと思われる。
「本論」は、個々の資料や、それについての調査・研究について書くべきところであるから、具体的な記述になる。とっかかりとしては、そうした種類の事柄の方が書きやすい。そして、そこから自然と導き出される結論を、「結論」部に書けばよい。
ただし、「序論」を完全に後回しにして、「本論」から書き出すのも、なかなかうまく行かないことが多い。
それは、行き着く前をまったく考えないで船を出すようなものだからである。詳細な到着点は必ずしもはっきりしていなくても、どの方角へ向かうかだけは最初に決めておかなければならない。そのような意味で、まず、一応「序論」を書いてみる、あるいは、少なくとも書いてみようと努力することは大切なことである。それが、「本論」を書く方向付けになる。
どの部分から書くにしろ、一度書いた部分がそれで完璧な形になるなどと言うことはあり得ない。何度も何度も書き直す必要がある。
そして、その書き直す過程こそが、研究を深め、新しいアイディアを生み出す過程でもある。
書いたものにとらわれてはならない。書き直すことを恐れてはならない。
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