更新日20030523

神道学演習 IIIb

〔講義目的〕
考察対象の広い神道研究にあって、言葉の研究は、まことに小さなささやかな営みである。しかしながらその営みがおろそかであったりすると、いかに壮大な論を打ち立てたとしても、その論は足元から崩れることもある。神祇、神社、祭祀等の研究に当たっては、まず、神祇や祭祀関係の言葉の基本的意味を正しく把握し、その上でさらにその言葉の宗教的あるいは象徴的意味を探る必要があろう。
 本居宣長は「古の道をしらんとならば、まづいにしへの歌を学びて、古風の歌をよみ、次に古の文を学びて、古ぶりの文をつくりて、古言をよく知て、古事記日本紀をよくよむべし、古言をしらでは、古意はしられず、古意をしらでは、古の道は知がたかりべし」との師賀茂真淵の教えを受け、その教えに従って「萬葉集をよく学ぶべし」(うひ山ぶみ)と説いているが、神道学を学ぶにあたっても、この教えは傾聴すべきである。
 本演習では、古代の神祇・祭祀語彙について基礎的研究能力を養うとともに古代日本の宗教についての理解を深めることを目的とする。

〔授業計画〕
 4月は、『万葉集』の書名と名義、成立、時代区分、音韻、表記、主要参考文献などについて概説する。受講者は、まず『万葉集』を手がかりとして下記のテーマもしくは神祇・祭祀語彙の中から各自担当テーマを選び、主要な辞書をひもとき、他の上代文献からも関連する用例を収集し、それらをさまざまな観点から分析し、「古言」をよく知るとともに、「古意」すなわち古代日本人の信仰、儀礼、習俗の世界を探ってゆく。なお、時代的には上代を中心として取り上げるが、テーマによっては、中古、中世、近世をも視野に入れて、通時的研究も行うこととなろう。

○萬葉人と神(神ながら・神から、天地の神、氏神、祖神、国神、神の社、神なび、みもろ、境の 神、庭の神)
○萬葉人と聖なるもの(山、樹木、海、川、風雨、雷、森と神社、日と月、火と水と石、植物と動 物、神代の伝承、現つ神としての天皇、言霊)
○萬葉人の世界観(高天原、常世の国)
○萬葉人と儀礼(祭る人、祭場、禊と祓、新嘗、旅と手向、農耕と雨乞、年中行事、産育、成人式、 婚姻、葬送と霊魂観・他界観)
○萬葉人と呪術(草木結び、袖返し、恋忘れ、眉根掻き、挿頭・蘰)
○萬葉人と卜占(足占、水占、石占、夢占)
○萬葉人と外来思想(神仙思想・老荘思想・仏教思想)

〔評価方法〕
春学期末は筆記試験・出席状況、秋学期末は発表内容・レポート(10枚以上)・出席状況を総合して評価する。

〔教科書〕
『萬葉集』 佐竹昭広・木下正俊・小島憲之共著(塙書房)