戦前の豊かな「音」の文化
大きなアサガオ方のラッパがついた蓄音機は、明治時代に製造された国産品だ。ゼミの時間、先生は時々蓄音機とさまざまなレコードを教室に運び込む。ここから流れるのは音楽ばかりではない。「発明王」エジソンが蓄音機を発明したのは1877年(明治10年)のこと。日本では西南戦争のあった年である。明治末には国産レコードや蓄音機が製造されるようになった。当初は浪曲や落語などの伝統芸能のレコードが主流だったが、流行歌、童謡、そしてクラシック、ジャズなどさまざまな音楽が人々の生活に広がっていく。蓄音機の普及に伴い、尾崎行雄や大隈重信、近衛文麿といった政治家たちが演説を吹き込んだり、ラジオ放送が録音されたりし、さまざまなレコードが発売された。大正時代、レコードを使った「リモート演説会」も開かれていたというから驚きだ。
音も歴史資料?
ゼミで講読する『東久邇日記』には、昭和16年(1941)12月8日の開戦の日にラジオから流れた臨時ニュースについて記されている。この放送が録音された戦時中の貴重なレコードが残されている。「歴史的な音源を実際に聴くことで、日記の記述の正確性を確認するとともに、当時の雰囲気を追体験することができます。演説やラジオの実況などの音声は本来その場限りのものですが、録音されたレコードを再生することで消えてしまう「音」を歴史資料として分析できるのです。ゼミ生達は、明治~昭和にかけて記された日記や書簡など文字史料を読み解く力を養いつつ、音声史料も活用しながら歴史研究を進めています」
多様な歴史資料を「読む・見る・聴く」愉しみ
普段の授業では、歴史書や古文書はもちろん、伊勢市内に所在する碑文や寺院の絵馬、レコードや紙芝居まで多様な歴史資料を日常的に読み解きながら学生と教員が共に歴史を探求している。近年はインターネット上のデジタルアーカイブの公開によってパソコンやスマホからでも史料へアクセスすることができる。歴史の中で記録されてきた史料に触れ、当時の人々の息遣いを感じながら歴史研究の楽しさを味わおう。
近現代史ゼミ
長谷川 怜 准教授
専門:日本近現代史
研究内容:日本の満洲進出、満蒙開拓団の戦後、旧華族の生活史、図画像・音源史研究